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神々が恋した幻想卿




東の果て、朝靄に包まれる博麗神社。
博麗霊夢は眼を覚ますとまず着替えを済ませ、新鮮な空気を肺に取り入れるべく障子を開いた。








































『『『『『 faith(信仰)!!faith(信仰)!!faith(信仰)!!faith(信仰)!!faith(信仰)!! 』』』』』」




























博麗霊夢は、そっと障子を閉めた。

























 -終わり-




















「……なにあれ!?」





霊夢は混乱していた。
小鳥の囀りの代わりに聞こえてきたのは、地を轟かす神々達の野太い嬌声。
矛盾しているのは分かっている。 ただ、今だけは放っておいて欲しかった。

何故、彼女達は賽銭箱の前で汗を玉と散らせながら腕を振り上げているのだろうか。
しかし、虚ろな瞳でただ一つの英単語を繰り返す彼女等に巫女の言葉が通じるとは到底思えない。

だが、しかし。


それでも、霊夢にはそれを止める義務がある。
異変を解決する為に。 そして異変を二度と繰り返させない為に。

意を決し、熱気漂う神々の黄昏に首を突っ込む。



「あのー、何やってんの?」

「Faith(なに)!?」

「ひっ!?」



駄目だ、キマってる。
日本語が通じないことに早速挫けそうになるが、文法表現を守っている以上まだ少しはまともな意識が残っている筈だ。
気を取り直し、目の前に居る紅葉が似合う神に話を続ける。



「あ、あの?、もしよろしければこの下賎な巫女めに、何が起きているのかお教え頂けると誠にありがたいのですが……」

「Faith(よろしい)!!」

「ぷろゃっ!?」



思わず噛んでしまう。 だが、会話が成り立つ事が証明された以上、あとはいつも通りに話を聞き、異変解決への算段を付けるだけだ。



「じゃ、じゃあ、聞かせて頂いてもいいわね?」

「Faithfull faith(我等は願う 幻想卿の降臨を)!!」


「……はい?」




理解が追いつかない。 ていうか幻想卿って誰?




「え〜っと、幻想郷じゃないの?」

「Faith(黙れ愚か者)!!」

「ぽれ〜ん!!」



神の放つ威光に、霊夢の袖が吹き飛ばされる。 ノンスリーブとなった霊夢に向けて慈愛の視線を送る秋静葉の、秋静葉の、秋静葉の眼差しは、正しく神の物であった。



「Faithfull small(幻想卿が舞い降りる日まで、我らは神楽を舞い続ける)!!」



袖を拾い集めながら神託を授かった巫女の背筋に、雷に撃たれたかの様な衝撃が訪れた。



「貴方達……馬鹿でし『FIFTH(五日{いつか})!!』なふすぅんっ!?」



次はスカートを飛ばされる。



「Faith!! Fifth element mit ain na(こうしていれば! いつか、幻想卿が降臨するって香霖言ってた)!!」



……やっと、霊夢は神の御心を窺い知る事が出来た。
彼女の言葉を総括するに、要は「幻想卿」とやらを見つけ出してぶちのめせば異変は解決、万事丸く収まるらしい。
そうすれば、この博麗神社に集う神達の宴を終了させる事が出来る。

ならば、どうするか。
答えはすぐに出た。

この様な末席に位置しているだろう神では無く、もっと上の、もっとビッグでジューシィな神様に話を聞けば全てが分かる事だろう。
周囲の状況を上空から確認した霊夢は、「ジュリアナ幻想」と書かれたお立ち台で輝く青春18切符を再運行する八坂神奈子を舞台袖に引きずり下し、優しく胸ぐらを包みながら質問する。



「『幻想卿』って誰?」

「おや、博麗の……いやぁ、その話は人間に出来る様なもんじゃないんだ……悪いね」



嗚呼、これは駄目だな--
急に老けが入り込み、陰が差し始める神奈子の耳に蒟蒻を差し入れ、他の神を見繕う。

「ふぇいすぅんっ……!」

艶かしい声を喘がせ意識を飛ばす神奈子。 耳の穴に蒟蒻入れられるのって気持ち悪いよね。
さて、秋姉妹の姉、守矢神社の神の片割れ、と来たから次は……お、いたいた。



「諏訪子、幻想卿ってどんな人なの?」

「あの人の話? さあ、外の世界では色んな人が彼の人の名前を呼んだって言うけど……」

「へえ、一応実在はするのね……」



良かった、まだ意識を保ってる神も……「Hey! エビバディ、ワンモアセッ! アーユレディ!? Faaaaaaaaaith☆」





「「「「「Faaaaaaaaaaaaaaaaaaith☆」」」」」










----幻想郷は、変わった。



博麗霊夢は落胆する。 ドロワーズが吹き飛ばされた事にではない。 幻想郷で最も力を持つ二柱の堕落にだ。
早い所マジでこの異変を解決したい。 ていうか、解決しないと自殺しかねない。
こいつらは信仰の力で疲れ知らず、つまり朝から晩までこのどんちゃん騒ぎを繰り広げるっぽい。


こいつぁ、厄い。
厄いから、話聞きついでに厄を引き取ってもらおう。


”悲劇の厄収集車” 比那名居 天子を探すが、どこにも姿を確認できない。
『FAITH(EUROBEAT Remix)』の波に揉まれながら40分、一向に見つかる気配の無い天子の姿に、霊夢は俺の怒りが有頂天変地異を巻き起こす。


原因は分かっている。 視界の端にチラチラ映り込む、穣子の無駄に上手いパラパラだ。
『超GALS! 寿藍しゃま』を読んで覚えたという彼女の動きには、一切の無駄が無い。

清流を思い起こさせる滑らかな手首の返し。
時に激しく、時に緩やかな足首の回転は、彼女を一つの芸術にまで高めている。

疑問なのは、作中で寿藍しゃまが踊っていたのは能だと言う事くらいだ。 そんなGALぁ居ねぇ。


可哀想だし、私がキレる前に、彼女にも一応声を掛けておこうと思う。
10秒に一回こちらをチラ見する穣子に私が耐えられなくなった時、それが秋の訪れが幻想郷から無くなる日だ。



「あ〜、ねえ穣子? 絶対100%素敵に無敵に大人気に知らないとは思うけど、天下御免の武者丸……比那名居 天子の居場所、ご存じない?」

「鍵山 雛じゃなくって?」



余りの威光に、霊夢は思わず地にひれ伏す。
そう、根本的なミスを犯していた。 「比那名居 天子」と「鍵山 雛」を無理矢理間違えていたのだ。

自らの失態に崩れ落ちる上着はネロネロと溶け出し、肢体に纏わりつく布を露にさせる。
服も気が付いたのだ。 ここはサービスシーンだと。

だが、挫けてはいけない。 私は死んだ神奈子の為にも、幻想卿を見つけ出すと誓ったのだ。
後光すら射し込む穣子の姿に、しかし霊夢は毅然と胸を張り、対峙する。 サラシがあるからこの描写はセーフだ。



「そうよ、鍵山 雛。 さっき居たわよね、うん、霊夢知ってる。
 ところで、幻想卿って誰だか知ってる?」

「えぇ〜、っていうかぁ〜、みのりんげんそーきょーさまのことぁ〜? マジリスペクト〜、CHO→マジフェイスぅ〜、みたいなぁ〜、かぁ〜んじぃ〜」















--「顔が ジャガイモ子」を鴉に与え、私は最後の頼みの綱、鍵山雛の元に急いだ。



頼む、知っていてくれ……じゃないと私は、この異変を解決する術を失ってしまう……!



藁にも縋る思いで、回転する雛の足下へと縋り付く。 もう恥も外聞も無い。



頼むから、幻想卿の正体を教えて……!





「雛、いえお雛様! 幻想きょ--」

「……厄√8」

「2.828427(にやにやよぶな)?」

「ヤクルト」

「おばさ……お姉さん」



過去のトラウマが蘇る。 あれは幻想入りさせてはいけない存在だ。





「Faith(はい上見て?)」

「あ?」


























----なによ、何もないじゃな……あれ?









気が付くと、霊夢は一人境内に立ち尽くしていた。
辺りには神の気配どころか、閑古鳥すら存在していない。

完全な無人。 いつも通りの神社。

人影は、無い。



「--やっぱり夢だったのかしら……あれ?」



首を傾げる霊夢。 だが足下を見ると、自分が靴とサラシ以外なにも身に着けていない事に気付く。
やっぱりあれは……



「霊夢ー!」



その時、上空から声がかかる。 自分の良く知る人物の声だ。
スカートを抑え、目の前に降り立つ東風谷早苗。 私の顔を見るなり頬を赤く染め、モジモジする姿がいじらしさを醸し出す。
彼女の視線は、私のサラシへと注がれている。




唐突に、嫌な汗が吹き出る。 どこから? 聞くな。





そういえば、東風谷早苗は、信仰を集める彼女は、向こうの世界では、現人---- 





「ねぇ霊夢、今度もし良かったら、一緒に”幻想郷”を--」






--ッ!










いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん☆







「え!? なに!? なに!?」



私の照れ混じりの叫びに動揺する早苗。 こうなれば知るか。 なるようになれだ。



「早苗、行くわよ! ”幻想卿”を探しに!」

「え? ……あ、う、うん!」



くそう、こうなったらもうヤケクソだ。 幻想卿だろうとなんだろうとかかって来い。 来ないならこちらから迎え撃つまでよ。


「そいぃっ!」

「はいぃっ!」


急いで早苗の服を脱がす。 
一切れのパンとナイフ、そしてサラシにランプを鞄に詰め込んだ私は靴下とサラシだけになった早苗の手を引き、神社を飛び出す。







--嗚呼、空と飛ぶという事は、こんなにも心地の良いものだったのか……







大空に描くシュプール、肌を切る風は私の火照った体を涼めてくれる。
快楽に包まれ、意識が天へと登っていく。 ここで私は一つ、たった一つの真実を見抜いた。





幻想郷には、鴉天狗が居る事を。 そしてそいつらは、至って論理的に数字を上げにくる事を。












おぉ、こわいこわい。



早苗が御柱に泣いて縋ったら、次の日神奈子が唐揚げいっぱいお土産に包んでくれた。
その時の早苗はすっごいエッチかったけど、唐揚げが美味しかったから早苗と結婚した。 もう幻想卿とかどうでもいいや。


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